
目次
「見えない奥歯だから」と後回しにしていませんか
数年前に抜いた奥歯を、そのままにしている。硬いものが噛みにくく、食事もつい柔らかいものに偏る——そんな方は珍しくありません。噛む働きは脳への刺激や栄養、会話にも関わります。今日から始められるケアと治療の選択肢を、順に整理します。
この記事の要点まとめ
- 奥歯を失うと噛む刺激が減り、脳や栄養、会話への影響が指摘されています
- 咀嚼回数を増やす工夫やパタカラ体操など、日常でできるセルフケアがあります
- 入れ歯・ブリッジ・インプラントなど治療法は複数あり、状態に応じて検討できます
歯が抜けると認知症リスクが高まる?咀嚼と脳刺激のメカニズム
「噛む」働きは、食べ物を砕くためだけのものではありません。口腔の健康と全身の健康の関わりは、公的な健康情報でも繰り返し示されています1。
噛む刺激が脳の血流や記憶領域に与える影響
咀嚼のたびに顎の筋肉が動き、歯根周囲の感覚受容器から信号が脳へ届きます。血流の増加も伴い、記憶や学習に関わる海馬を含む広い領域へ刺激が及ぶと考えられています。噛む機会が減れば、その刺激の総量も少なくなっていきます。咀嚼は毎日数百回くり返される、もっとも身近な脳への刺激とも言えるでしょう。
残存歯数と認知機能に関する統計的データ
国内外の疫学調査では、残っている歯が少ない方ほど認知機能の低下がみられる割合が高い傾向が報告されています。ただし歯の本数だけが原因と言い切れるわけではありません。噛みにくさによる栄養の偏り、外出や会話の減少といった要因が重なった結果とみる考え方が一般的です。厚生労働省も、生涯にわたる歯の保全を健康施策の柱に位置づけています2。
歯周病菌とアルツハイマー型認知症の関わり
歯を失う原因として大きいのが歯周病です。歯ぐきの炎症が続くと、炎症性物質や口腔内細菌が血流を介して全身へ広がる可能性が指摘されています。アルツハイマー型認知症に関わるアミロイドβの蓄積と歯周病菌との関連を探る研究も進んでいますが、結論づけられる段階ではありません。それでも、日々のオーラルケアの意義は改めて見直されつつあります1。
【よくある誤解】「見えない奥歯だから大丈夫」が招く全身健康への影響
奥歯は人目につきにくく、1本失っても見た目の変化に気づきにくい場所。一方で、機能面の役割は決して小さくありません。
噛み合わせの崩壊と消化器官への負担増大
歯は隣同士で支え合って並んでいます。1本失われると、隣の歯が傾いたり、噛み合う相手の歯が伸び出したりして、噛み合わせのバランスが少しずつ変わることがあります。すりつぶす面積が減れば食塊は粗いまま胃へ送られ、消化器官の負担が増える場合も。「1本だけ」の欠損が、お口全体の連鎖的な変化の入口になり得る点に注意が必要です。
咀嚼力低下に伴う食事の偏りと栄養バランスの悪化
硬い肉や繊維質の野菜を避けるようになると、献立は麺類やパン、粥といった柔らかい炭水化物に寄りやすくなります。たんぱく質やビタミン、ミネラルが不足すれば、筋力や免疫にも影響しかねません。噛める食品の幅が狭まることは、栄養と食の楽しみの両面に関わってきます1。
お口の機能低下がもたらす滑舌や社会的交流への影響
奥歯や噛み合わせは、舌の動きや発音の土台でもあります。滑舌が気になると会話を控えがちになり、外出や集まりから足が遠のくことも。こうした社会的な交流の減少は、脳への刺激をさらに減らす要因として関心が寄せられています。お口の機能は、生活の質そのものと結びついていると考えられています2。
今からでも始められる咀嚼機能の維持・向上トレーニング

年齢を重ねてからでも、噛む・飲み込む働きを支えるセルフケアは始められます。道具も費用も、ほとんど要りません。
日常の食事で咀嚼回数を意識的に増やす工夫
まずは「もう10回多く噛む」という意識づけから。数えるのが煩わしければ、箸を置いてから飲み込むまで顎を動かすと決めるだけでもかまいません。調理では、根菜をやや大きめに切る、加熱時間を少し短くして歯ごたえを残す、ごぼうやきのこ、海藻など噛む回数が自然に増える食材を一品加える——このあたりが役立ちます。ゆっくり噛むと味の変化にも気づきやすく、味わう力を育てること自体が、日々の脳への働きかけになると考えられます。ただし噛みにくい部位があるまま硬い食品を無理に増やすのは控え、まずは歯科医院で口腔の状態を確認しておきましょう1。
お口周りの筋力を維持するパタカラ体操の実践法
「パ・タ・カ・ラ」を一音ずつはっきり発音する体操は、唇・舌・のどをまとめて使うセルフケアです。「パ」は唇を閉じて開く、「タ」は舌先を上顎につける、「カ」は舌の奥を持ち上げる、「ラ」は舌を丸める。それぞれ違う筋肉が働きます。1音を8回ずつ、続けて「パタカラ」と連続で5〜10回。朝の身支度や食事前など、決まったタイミングに組み込むと続けやすくなります。頬を膨らませてすぼめる運動や、唾液を意識して飲み込む練習を添えるのもよいでしょう。痛みや疲れを感じたら中断し、様子をみてください。
奥歯を補い噛む力を取り戻すための治療選択肢と受診のポイント
セルフケアと並行して、失った歯そのものを補う方法も検討する価値があります。長く経過している場合でも、出発点は現状の把握です2。
入れ歯・ブリッジ・インプラントそれぞれの特徴と検討軸
失った奥歯を補う補綴治療は、大きく3つに分かれます。
- 部分入れ歯:着脱式で、周囲の歯を大きく整える必要が少ない方法。取り外して清掃でき、保険診療の範囲で対応できる場合もあります。
- ブリッジ:両隣の歯を支えにして橋のように渡す固定式の方法。支えとなる歯に処置が必要です。
- インプラント:顎の骨に人工歯根を埋め込む自由診療。隣の歯への負担を抑えやすい一方、外科処置と骨の状態の評価が前提になります。
どれが向くかは、骨の量、残っている歯の状態、清掃のしやすさ、ご希望や費用の考え方によって変わります。自由診療は費用の負担がある分、将来の歯の保全や食生活への寄与という視点で考えたい選択肢です。
受診時に確認しておきたい治療手順と通院の目安
初診でいきなり大がかりな処置に進むことはありません。多くの場合、問診と検査、歯ぐきの状態確認と清掃を経て、治療計画のご説明という順序です。歯周病の管理が必要なら、そこを整えてから補綴へ移ります。通院回数や期間は選ぶ方法と口腔の状態で幅がありますので、初回相談の段階で見通しと費用の目安を確認しておくと、落ち着いて治療に臨めます。期間が空いていたことを責められることはありませんので、まずはご相談ください。
山脇歯科・矯正歯科におけるカウンセリングと精密検査
倉敷市八王寺町の当院では、歯科用CTやパノラマレントゲン、口腔内スキャナー(iTero)で骨や噛み合わせの状態を立体的に把握し、そのうえで複数の選択肢をご説明しています。型取りが苦手な方にも、スキャナーで対応しやすくなりました。また当院は、皆さまが落ち着いて気持ちよく治療を受けていただけるよう、滅菌・消毒による感染予防に力を入れる方針を掲げ、クラスB高圧蒸気滅菌器やDAC、口腔外バキューム、空気清浄機を整えています。インプラントなどの外科処置を行った場合は、治療後の定期的なメンテナンスが長期の状態維持に関わりますので、通院計画も含めてご相談ください。
よくある質問
Q. 歯の健康と全身の健康は関係ありますか?
A. 関わりがあると考えられています。歯ぐきの炎症が続くと炎症性物質や口腔内細菌が全身をめぐる可能性が指摘されており、噛む機能の低下は栄養状態にも影響します。口腔ケアは全身の健康管理の一部として捉えるのが、現在の考え方です。
Q. 咀嚼と認知症の関係は?
A. 噛む動作は脳の血流を促し、記憶に関わる領域を含む広い範囲へ刺激を届けると考えられています。噛む機会が減ることは、その刺激や栄養、会話の減少と重なるため、認知機能との関連が研究されています。ただし因果関係が解明されたわけではなく、断定はできません。
Q. 入れ歯やブリッジでも意味はありますか?
A. インプラントに限らず、噛み合わせを適切に回復する方法であれば、噛む働きや食事の幅を支える助けになると考えられます。ご自身の骨や残存歯の状態に合った方法を選ぶことが大切です。
Q. 何年も経過しているのですが、今から受診しても間に合いますか?
A. まずは現状の把握から始められます。歯ぐきや骨の状態、噛み合わせの変化を検査で確認し、負担の少ない順序で計画を立てていきます。期間が長いほど確認事項は増えますが、できることが残されている場合は少なくありません。
Q. 通院はどのくらいの頻度になりますか?
A. 選ぶ治療法と口腔の状態によって異なります。初回相談で検査結果をもとに、おおよその回数と期間、費用の目安をお伝えしますので、ご都合を踏まえて一緒に計画を立てましょう。
参考文献
1. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/
2. 厚生労働省(政策・健康情報の入口) https://www.mhlw.go.jp/
平成22年 山脇歯科医院 承継
日本臨床歯周病学会
日本接着歯学会
OJ正会員
あわせて読みたい関連記事


